その蜩の塒2

徒然なるままに日暮し、されど物欲は捨てられず、そのホコタテと闘う遊行日記。ある意味めんどくさいブログ。

玄鳥さりて

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 葉室麟遺作のこの作品は、藤沢周平「玄鳥」のオマージュと言われています。似たような言葉では、インスパイア、リスペクト、サンプリング、バロディ、パクリ、引用等々あるわけで、裁判沙汰になるかは微妙な関係にあります。九州の架空藩蓮乗寺藩の書院番三浦圭吾が主人公ですが、どちらかと言うと八歳年上の樋口六郎兵衛が影の主役的存在。その六郎兵衛は、道場での稽古相手であった馬廻り役百五十石の上士芳賀作之進を助けられなかった過去が、一途に圭吾を守り通すことに繋がりました。

 衆道(男色)的なその行動は何度も周りから揶揄されるわけですが、昔は女人禁制の僧侶においてはそれほど異質なものではなかったようです。また、切腹という形で責任をとらされるのも話の中では出てきます。それによって真相究明ができなくなり、うやむやになってしまうわけです。腹は切らないまでも自殺という形で終焉する事件は、今でもあります。これらは、特攻隊しかり現代日本人の精神構造にも影響していると思われます。日本文化は闇が深いです。

 あと葉室作品に共通することですが、腹を患っている六郎兵衛がなかなか死なないのはよくあることです。六郎兵衛がどういう死に方をするかに重きをおいて読んでいますから尚更です。

 登場人物は、藩主永野備前守利景はじめ主席家老今村帯刀(たてわき)、次席家老沼田嘉右衛門等海千山千の輩が悪さを仕掛けてきて、一難去ってまた一難の繰り返しでしたが、苦境を乗り切るスベが隠されているとも言えます。