江戸時代末期のことで、広瀬淡窓が営む私塾咸宜園(かんぎえん)と八歳年下の弟久兵衛は、「霖雨」にも登場しました。今回の主人公は子どもがいない淡窓の養子となった旭荘が主人公。儒学者であり漢詩人なので小説にも漢詩が登場し、読みにくく内容的にも難しかったです。前半は旭荘のDVが痛々しく読んでて嫌な感じがしてましたが、松子が病床に伏してからはまるで別人のようにDVがなくなるばかりか、トイレに付き添ったり入浴介助もするなど献身的に尽くします。その松子は17歳で後妻に入り、一人息子の孝之助を残して29歳という若さで亡くなりました。
天保4年から3年間大飢饉があり、それに起因して大塩平八郎の乱が起こり、老中水野忠邦による天保の改革が行われるなど、明日がみえない激動の時代を生き抜いた夫婦の愛の物語と言えます。葉室麟の遺作ですが、死を予感してたのかもしれません。