その蜩の塒2

徒然なるままに日暮し、されど物欲は捨てられず、そのホコタテと闘う遊行日記。ある意味めんどくさいブログ。

千鳥舞う

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 博多八景を描く女絵師・箭内(やうち)里緒(号:春香)が主人公。葉室作品は天保時代が多いですが、今回もそれ。飢饉が多くどこの藩も財政が逼迫していましたが、福岡藩では、御救奉行に改革の立案者である白水養禎(しろうずようてい)を起用するも、結局失敗。小説は十の短編集から成り立っており、片想いやプラトニックラヴ的な男女の悲哀が描かれています。最終的にはそれらが見事な繋がりをみせ、その構成力には脱帽です。絵の物語だけに、それぞれの章に挿し絵があるとなおよかったですね。

 物語のひとつ「濡衣夜雨」。兄弟子の春楼が思いをかけた遊女の千歳は、男と海に身を投じて心中。遺体の着物が濡れたままなのが、さりげなく濡衣塚の逸話とリンクしてるのは流石です。(博多の濡衣塚は実在)

 また役者の清吉、豊松兄弟の話では、歌舞伎の演目伊達家のお家騒動を扱った伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)が登場。五年前に山形の黒森歌舞伎で観ていましたので、顛末はよく分かっておりましたが、乳母(めのと)政岡の子千松が幼君鶴千代の身代わりで毒饅頭を食べるシーンで、千松を演じた豊松が同じく毒を盛られるとは。清吉もそれ以前にネズミを殺す「石見銀山猫いらず」をお茶に入れられたことがあるので、すぐに気づきました。石見銀山は、最終話で杉岡外記の妻妙もお茶に入れています。

 ともあれ、心の移り変わり、内面のゆらぎ、待ち続ける心情をここまで描写できるものではないと感銘を受けました。